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大阪地方裁判所 昭和45年(行ウ)26号 判決

原告

斎藤俊一

代理人

石川元也

外一四名

被告

大阪府知事

左藤義詮

代理人

道工隆三

外四名

主文

原告が昭和四四年七月一八日にした八尾市議会の原告に対する除名決議について地方自治法第二五五条の三に基づく審決申請に対し被告が何らの処分をしないことは違法であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

主文同旨の判決。

二、被告

1  本案前の申立

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

2  本案の申立

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、当事者双方の主張

一、原告の請求原因

1  原告は、八尾市議会議員であるが、昭和四四年六月二八日本会議で市長に対し代表質問をなしたところ、八尾市議会は同年七月七日本会議において原告の代表質問の内容が同市議会会議規則第一〇九条に違反するとの理由で原告を除名する旨の決議をなした。そこで、原告は被告に対し昭和四四年七月一八日地方自治法第二五五条の三に基づき右除名決議を取消す旨の審決の申請をなしたところ、同日被告は右申請を受理した。

2  しかるに、被告は相当の期間を経過した現在も、右審決の申請に対し何らの応答をしない。

3  ちなみに、原告の右審決の申請に対する被告の審理の経過はつぎのとおりである。

(一) 原告は前記のとおり昭和四四年七月一八日被告に対し審決の申請をなし、被告の受理と同時に証拠として書証一号から三四号までを提出し、八尾市議会は同年八月二日弁明書を提出し、その後も同年九月三日までの間審決申請補充書、弁明補充書をそれぞれ提出し、原告、八尾市議会の双方は十分主張をつくした。なお、原告は口頭にて意見を求め八月一五日原告および同代理人、補佐人が意見陳述をなし、また、参考人の陳述を求め原告の申立てた参考人のうち、参考人陳述を三度にわたつて拒否した八尾市議会議員を除いて二名の参考人が事実を陳述した。そして、同年九月三日被告は十分に審理をつくした、これ以上審理することは何もない、早期に判断を示す旨言明して審理を終結した。その後、被告から原告に対しなんらの釈明も証拠提出の要求もなされたことがない。

なお、被告は原告および原告代理人らと同年九月末頃会見した際、決定の下書きもできている、あとは決議がのこつているのみだと言明していたが、同年九月二〇日大阪地方裁判所において原告に対する前記除名処分の執行停止決定(昭和四四年(行ク)第二一号)がなされてからは慎重に審議をしていると言を左右にするに至つた。

(二) 昭和四四年一〇月一一日大阪府議会総務常任委員会において、大阪府副知事田中、同総務部長石川らは「審決の遅延は遺憾である。すみやかに公正な結論を出す。」と述べた。

(三) ところが、昭和四五年四月六日原告および同代理人、共産党府会議員らが前記田中副知事、石川総務部長に審決を早期になすべく要求したところ、同人らは大阪地方裁判所で現在進行中の除名処分取消訴訟の審理の状況をみてしか審決は出せないと言明するに至つた。右のように裁判の進行中を理由として審決を遅延させていることは明らかに違法である。

4  よつて、原告は被告の右不作為が違法であることの確認を求める。

二、被告の答弁並びに主張

1  本案前の主張

本来、行政事件訴訟法第三条五項の「不作為違法確認の訴え」は、行政庁が処分あるいは裁決をなさず、それがため取消訴訟等の手段もとりえない場合の救済制度として認められたものであり、処分あるいは裁決取消の訴えの補充的な性質をもつ訴訟である。したがつて、すでに処分取消の行政訴訟を提起し、そこで終局的な救済を得るべく審理が遂行されている限り、不作為違法確認の訴えのごとき補充的な訴訟を認めるべきではない。本件についてこれをみるに、原告はすでに昭和四四年九月八日大阪地方裁判所に対し八尾市議会の原告に対する除名処分の取消の訴えを提起し、あわせて執行停止の申立てをなしたところ、同年同月二〇日同裁判所において右除名処分にき執行停止決定がなされた。そして、右除名処分取消の訴えの本案審理は同年一〇月二八日第一回口頭弁論が開かれ、以後昭和四五年五月一一日まで六回の口頭弁論があり審理が進められている。右にみたように原告は除名処分取消の訴えによりこの決着をつけようとしており、その訴訟も順調に審理されているばかりでなく、原告は裁判所の執行停止決定により八尾市議会の議員たる身分を回復しているのであるから、右除名処分取消の請求とは別個に、本件不作為の違法確認を求める利益はないというべきである。

2  原告主張の請求原因に対する答弁

原告主張の請求原因第1項記載の事実は認める。同第2項記載の事実のうち、被告が現在まで原告の申請に対する審決をしていないことは認める。

同第3項の(一)の事実のうち、原告が昭和四四年七月一八日審決申請と同時に証拠として書証一号から三四号証までを提出し、八尾市議会が同年八月五日に弁明書を提出し、その後同年九月三日までの間に審決申請補充書、弁明補充書等がそれぞれ提出されたこと、同年八月一五日原告および同代理人、補佐人の意見陳述があつたこと、参考人として陳述を求めた者のうち欠席のため聴取できなかつた者を除き二名の参考人の陳述を聴取したこと、同年九月三日頃以後被告が原告に対し釈明や証拠提出の要求をしなかつたこと、同年九月二〇日大阪地方裁判所において原告に対する除名処分の執行停止の決定がなされたことは認めるが、その余は否認する。

同第3項の(二)の事実は認める。

同第3項の(三)の事実のうち、昭和四五年四月六日田中副知事、石川総務部長が原告らに対し、原告主張のような趣旨のことを述べたことは認めるが、その余は否認する。

3  本案についての主張

被告は原告の審決申請につき未だ応答をしていないが、つぎの理由により被告の右不作為は違法ではない。

(一) 慎重審議の必要性

(1) 本件審決の対象たる処分は八尾市議会の除名議決である。この除名議決は議員定数の八分の一以上の者の発議による懲罰動議が本会議に付され、その採択により懲罰委員会が設置され、その委員会で除名を相当と認めたうえ本会議に上程され、そこで議員の三分の二以上の者が出席し、その四分の三以上の者の同意によりその議決が成立するという非常に慎重にして厳格な手続を経てなされる処分であるところ、本件においては、賛成二七名反対一名で懲罰動議が採択され、除名決議の本会議において賛成三一名反対一名の圧倒的多数にて議決されたものである。このようにしてなされた議会の除名の決議は議会の本来有する規律権に基づくものであり、地方自治の本旨からしても充分なる尊重を払わねばならないのであるから、その取消を求める審決の審議は自ずから慎重にならざるを得ない。

(2) 他方、審決庁たる被告大阪府知事は本来八尾市議会とは上下関係に立たないうえ、指揮監督する立場にもない第三者行政庁であるところ、本件のごとき除名決議取消の場合には、知事が一地方議会の決議を左右しうることになり地方自治の精神にそぐわない面があるばかりではなく、審決の結果によつては八尾市議会は更に争う方途を失うという制度的にも問題がある。したがつて、この意味からも審決は慎重審議を要する。

(3) 審決の審理手続は書面審理を原則としており、前記(1)(2)のように慎重なる判断が要求されるにもかかわらずその審理手続は必ずしも充分でなく、それを補うべく参考人の陳述を得ようとしても希望する参考人の欠席により陳述が得られず、重大なる結論を出すにふさわしい審理手続の制度的保障がない。本件においても八尾市議会側の参考人の出席がいずれも得られなかつた。

(二) 審理の中断中止の合理性

(1) 同一事項についての行政不服申立てと行政訴訟とが同時に並行して係属した場合、公正取引委員会の審決、特許審判、海難審判のごとく専門の審判機関が訴訟の前審的性格をもつて審決審判を行なう場合はともかく、本件のごとく第三者行政庁に対する通常の行政不服申立てにおいては、かかる前審的性格は稀薄であり、行政庁の判断にとくに高度の専門的知識経験が加味されているがため裁判所の審理が容易になるというものではないから、両者の並行審理は手続上無駄であるばかりか両者の判断の相違はいたずらに当事者を困惑させることにもなる。したがつて、行政庁は行政不服申立て中に処分取消の訴えが提起された場合、事案の性質内容により事実上行政不服申立ての審理を一時中止し、組織、手続、効果等すべて優位にある行政訴訟の審理の経過をみてその最終結論を得ることが許されるというべきところ、本件においては原告はすでに除名処分の取消の訴えを大阪地方裁判所に提起し、執行停止の決定を得て議員としての地位を一応回復しており、処分取消の本案裁判の方も今まで六回の口頭弁論が開かれ、審決手続において参考人として聴取しえなかつた証人の尋問も行われているうえ、本件のように審理の対象が議会の自律権の尊重という地方自治の本旨に矛盾しないでもない性格の、しかも第三者たる行政庁が行なうという不備な審決手続においては、審決手続の中断中止の要請が強く認められる。ちなみに、他府県の同種議員除名議決取消の審決事例(四件)においては福島県知事の行なつた容認の審決事例を除いて他の三件はいずれも行政訴訟の提起後も長期にわたつて審決の結論が出されていない。

(三) 以上の事情により、被告は一応その審決の審理を中止し、裁判所の審理の経過をみて判断するのが相当であると考え、審決をいまだなさないのである。したがつて、被告が現在まで審決を出すに至つていないことにつき何ら違法は存しない。

三、被告の主張に対する原告の反論

1  被告の本案前の主張に対する反論

(一) 不作為違法確認の訴えは、国民の行政庁に対する申請を行政庁が不作為のまま放置し、その当否の決定を不当に遅延させている場合に、不作為の違法を確認して決定の促進をはかり、法律上国民の有する申請権の実効性を期する訴訟である。したがつて、本訴の訴訟物は行政庁の不相当期間にわたる不作為により国民の申請権が侵害されているか否かである。かかる性質をもつ本訴について訴えの利益の有無を考えるならば、申請に対し行政庁が不作為状態を持続している以上は法令の改正等で行政庁の応答義務が消滅するような特別の事情のない限り、訴えの具体的利益または必要性は存在すると解されるところ、被告が主張列挙する理由は右の特別の事情に該当ないしは相当するものではない。仮に、一般的抽象的には不作為違法確認の訴えがいわゆる抗告訴訟の補完的機能をはたすものであつたとしても、それとは別に、行政庁による申請権の侵害そのものの救済をはかつて、行政庁自らが法律による行政の原則を履践すべく国民に訴権を認めたものである。

(二) 原告が除名取消の訴えを提起し、これによりことの決着をつけようとしたとしても、これにより本訴の訴えの利益がなくなるものではない。なぜなら、不服申立てと行政訴訟の並行審理が現実化することは法律制度上想定されており、両者の審理は必らずしも趣旨、目的、範囲を常に共通するものではない。また、審理の手段方法においても相違するところがあり、両者を同一視したり、行政訴訟が不服申立ての審理をすべて包摂すると解することは明らかに誤りである。本件についてみても、被告の主張のごとくであれば訴願(審決)前置を義務づけ簡易迅速な略式の手続によつて争いを解決し、国民の権利利益の救済をはかる法の趣旨は全く没却されるに至る。

(三) 被告において除名処分を取消す審決を行なうならば、行政不服審査法上八尾市議会においてその審決を争う方法がないから原告は確定的に議員たる地位を回復する。被告が不相当な期間にわたつて審決しないことによつて原告は早急に確定的に議員たる地位を回復する機会を奪われ続けているのである。議員たる地位は定められた任期によつて時間的に限定された地位である。したがつて、除名処分取消請求の訴えが議員の地位を確定的に回復するという効果を発揮するのは残存任期の期間内に請求を認容する確定判決を得る以外にない。被告が審決をしない以上原告はその任期中(昭和四六年三月末まで―被告は昭和四六年四月三〇日までと主張する)に確定的に職員たる地位を回復する途がない。かかる場合に被告が原告の申請権を侵害していることの違法を確認し、速やかに被告が審決をすべく促がすことを求める利益は極めて大きいというべきである。

(四) 被告は原告が裁判所の執行停止決定を得ていることをもつて訴えの利益がない理由の一つとするが、執行停止決定を得た原告の現在の地位の暫定性、不安定性は多くを論ずるまでもない。

(五) 被告が法律上の義務を遂行して原告の請求を認容する審決をすれば、即座に紛争は確定的に解決し得るのであつて同一対象事実を行政審査、司法審査の対象として別異に審理する事態にはならない。また、仮に被告が原告の請求を棄却ずる審決をしたとすれば、原告は原処分の取消を求めて訴訟手続により救済を求めることになるが、これは行政機関が終審として裁判を行なうことができないことの当然の帰結である。

(六) 原告は、一日も早く議員たる地位の確定的な回復を求めて(議員の除名は当人にとつては死刑にひとしい極刑であり、除名された状態が長期にわたることは選挙によつて選出される議員にとつて住民からの信頼を失い、その政治生命にもかかわる重大なことであるから)、あらゆる手段、方法を利用すべく努力しているのであり、除名処分取消訴訟を提起したのは被告が違法に審決を行わないのでとつた措置であつて、審決申請を取下げたりこれを諦めたりするものではない。

(七) 付言するに、原告は地方自治法二五七条にしたがつて除名処分取消の訴(昭和四四年(行ウ)第八三号除名処分取消請求事件)を大阪地方裁判所に提起したのではなく、行政事件訴訟法八条二項二号によつて右訴えを提起し適法に係属したものである。したがつて、被告の応答を擬制することはできないし、また、地方自治法の前記規定は絶対的不服申立前置主義ないし裁決主義をとる同法中の審査申立てにつき出訴の道をひらく法意であり、原告の本訴請求、換言すれば申請権を剥奪するものでないことは明白である。

2  被告の本案についての主張に対する反論

(一) 被告は除名決議に対する審決が慎重に行われなければならない旨述べているが、それは被告の不作為を正当化するものではない。被告は審決申請に対し昭和四四年一〇月には「それ以上に審理することは何もなく早期に公正な結論を出す」旨言明していたのであるから、結局被告が決定をためらうのは政治的圧力に屈したか、政治的判断によるかのいずれかである。被告は被告が第三者行政機関であること、地方議会の意思を尊重すべきことを理由に慎重審議の必要性を述べているが、議会の決議が違式の決議であること、法令の解釈適用を誤つたものであること、地方自治、議会制民主主義の根幹をふみにじつたことが歴然としている本件除名決議のごとき場合において審決庁たる被告が憲法と地方自治の本旨に立脚して審決すべきことは法の予定するところである。また、被告は審決手続の審判手続としての不備ないし不完全さを論じているが、これは司法審査と全く均しい方式をとることなく、法の規定する程度に簡易な方式で迅速に判断すべきことを要請されていることの結果であつて何ら異とするに足らない。それゆえ法律上正当な申請権を有するものには司法審査への権利救済の途を開いていると言えるのである。被告の主張は失当である。

(二) 被告は行政不服申立てと行政訴訟の併行審理の不合理性を論じているが、本件除名処分に対する原告の審決申請を容認する審決は原告の議員たる地位を確定的に回復するものであることは前記のとおりであつて、一般に論じられ、特に人事委員会審理との併行審理について論じられるものとはその様相を異にする。また、中止処分のごときものは法律上の手続としてあり得べきものでなく、被告の「裁判待ち」の態度は、自らの法律上の義務を怠り、よつて原告の申請権を侵害するものであつて違法である。

(三) 本件除名処分のような場合においては、行政事件訴訟法八条二項に定める事由がある場合のほか、知事の審決を経た後でなければ、その取消を求める訴えを裁判所に提起することができない(地方自治法二五六条)。このことは行政不服審査法一条の趣旨からしても、審決庁の早急な判断をより強く要求している。しかも八尾市議会の議員の任期は昭和四六年三月末までであり七ケ月後の四月には選挙がひかえている。このことは一層審決がいそがれねばならない客観的事情である。

理由

一、まず、被告の本案前の主張について判断する。

被告は、本件除名処分取消の抗告訴訟が提起され、終局的な救済手続が遂行され、かつ、除名処分の執行停止決定が裁判所によつてなされている場合には、不作為の違法確認の訴えのごとき補充的な性質をもつ訴訟を認める利益はない、旨主張する。

しかしながら、原告は、八尾市議会のなした原告に対する除名処分について、地方自治法二五五条の三に基づき被告に対し審決を申請したもので、もし、右申請が認容されて本件除名処分取消しの審決がなされた場合には右審決は、同法二五八条、行政不服審査法四三条により八尾市議会を拘束し、原告は、本件除名処分取消の抗告訴訟の結果をまつまでもなく、迅速、簡易に救済される訳であつて、たまたま行政救済手続たる本件審決の申請と司法救済手続たる本件除名処分取消の抗告訴訟とが併存するに至つた(もともと、地方自治法二五六条、行訴法八条一項ただし書からすれば、かかる結果は生じないのであるが、審査庁が応答しない場合、行訴法八条二項によりかかる結果を生ずる)からといいつて、原告が被告の本件審決を求める利益が消滅するものではなく、特段の規定がない本件においては審決庁たる被告は、相当期間内に本件審決の申請に対する判断(応答)をなすべき法律上の義務を負うものである。

このことは、原告にかかる除名処分の執行停止決定がなされている場合においても同様であり、右は、司法救済手続による終局的判断をなすための暫定的仮の措置であるから、執行停止決定がなされていることをもつて被告の前記応答義務に何等影響を及ぼすものでないことはいうまでもない。

したがつて、被告のこの点の主張は到底採るを得ない。

二、よつて本案について判断する。

1  原告主張の事実のうち、「(一)原告が、八尾市議会のした原告を除名する旨の決議について、昭和四四年七月一八日被告に対し地方自治法二五五条の三に基づき審決の申請をなし、同日被告がこれを受理したが、いまだ右申請に対する審決をしていないこと、(二)原告は、同日証拠を提出し、一方八尾市議会も同年八月五日弁明書を提出し、その後同年九月三日までの間に、審決申請補充書、弁明補充書等が提出されたこと、(三)同年八月一五日、原告、同代理人及び補佐人の意見陳述がなされたこと、(四)参考人(二名)の意見聴取がなされたこと、(五)同年九月三日頃以降、被告が原告に対し釈明ないし証拠提出等の要求をしていないこと、(六)同年一〇月一一日、田中大阪府副知事、石川同総務部長が大阪府議会総務常任委員会において、「審決の遅延は遺憾である。すみやかに公正な結論を出す。」と述べたことについては、いずれも当事者間に争いがない。

右の事実からすると、昭和四四年一一月頃には既に審決をなしうる状況に至つた、というべきであり、したがつて、その後一〇ケ月にも及ぶ間なんらの審決をしないことは違法である、というの外はない。

2 被出は、被告がいまだ審決をしないのは、(一)地方自治の本旨の尊重、(二)審決の結果、もし八尾市議会の原告に対する除名決議取消の結論が出た場合、八尾市議会はこれを争う途がないこと、(三)審理手続の制度的保障の欠除、(四)審決手続の中断、中止は認められるべきであり、本件の場合は、結局裁判所の処分取消訴訟の経過をみて判断するのが相当であるから、慎重なる審議をすべきであり、したがつて、審決の遅延は止むを得ないもので、違法ではない、旨主張するが、右はいずれも立法論的意見であつて、いまだ応答義務を尽していない違法につき、これを阻却するに足る具体的事実の主張(及び立証)とは認められず、他に違法阻却事由の主張、立証はないので被告のこの点に関する主張は採用し得ない。

三、以上の次第で、原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとし、民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(井上三郎 矢代利則 大谷種臣)

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